ワンポイント税務
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2025年10月 大家さんのための税金基礎講座
そのリフォーム費用「経費」?それとも「資産」?賢い判断術とは!?
ご所有物件の改修費用について「どこまでが経費になるのか?」と、判断に悩まれたことはないでしょうか。
実はこの問題、単なる経費計算に留まらず、「いつ、どの工事に、いくら投資し、税務上どう位置付けるか」という、キャッシュフローと資産価値に直結する、いわば経営判断そのものなのです。例えば、一体の工事と見なされる計画を、安易に見積書上で分割しないなど、税務の基本を押さえることが戦略の第一歩となります。
そこで今回は、長期保有を前提に、減価償却や最新の補助金制度をどう活用し、意思決定に繋げるかのヒントを解説します。
手元資金を増やす「減価償却」の工夫
資本的支出を減価償却として費用化する工夫により、手元資金を増やすことができます。例えば、取得費5,000 万円のRC 物件を、建物本体4,000 万円と給排水・空調等の「附属設備」1,000 万円に分けて計上するとどうなるでしょうか。
附属設備は建物本体より短い耐用年数で償却できるため、初年度の経費を大きく増やすことができます。
【附属設備を分割した場合の償却費比較(例)】
計上方法 建物(47年償却) 附属設備(15 年償却) 初年度の減価償却費(定額法)
一体計上 5,000万円 なし 約106 万円
分割計上 4,000 万円 1,000 万円 約85万円+約66万円=約151 万円
このように、分割計上するだけで初年度の経費が約45 万円も増加し、キャッシュフローに大きく貢献することが分かります。
さらに、中古物件では耐用年数を短く計算できる「簡便法」(国税庁No.5404)を活用すれば、より投資回収を早めることも可能です。
【2025年最新】補助金・税優遇を組み込んだ意思決定
こうした税務の基本に加え、国の制度をうまく活用することも、今の賃貸経営では大切です。
2025 年も「住宅省エネキャンペーン」等で断熱窓や高効率給湯器への補助が継続されており、資本的支出の自己負担を軽減できるチャンスです 。こうした投資は、光熱費削減による入居者満足度向上と、将来の家賃設定にも有利に働くのではないでしょうか 。
同様に、1982 年1 月1 日以前築の物件で、現行基準に適合させる耐震改修(費用50 万円超)を行うと、翌年度の固定資産税が2 分の1 に減額される制度(2026 年3 月31 日までの工事完了が期限)も、覚えておきたいポイントです。
なお、補助金を利用して設備を導入した場合、税務上の取得価額の扱いに注意が必要です。原則として、補助金相当額を固定資産の取得価額から控除する必要があります。
例えば、30 万円の工事で10 万円の補助金が出た場合、資本的支出として資産計上する額は20 万円となります。ただし、この処理は将来の売却時の取得費にも影響するため、必ず専門家にご確認ください。
グレーゾーン ~差額部分を資本的支出とみなす考え方~
最後に、多くのオーナー様が判断に迷われる「グレーゾーン」について、一つの考え方をご紹介します。
! 考え方のポイント ! 故障を機に設備をアップグレードする場合
今回のケース:標準的な給湯器→多機能給湯器への交換
標準的な給湯器(交換費用10 万円)が故障。これを機に、省エネ性能が高い多機能品(費用30 万円)に交換した。
この30 万円の費用は、以下のように按分して考えます。
30 10万【修繕費(経費)として計上】 本来の原状回復(同等品への交換)に必要な費用のため。
万 20万【資本的支出(資産)として計上】新たな価値(省エネ・多機能)を付加するための費用のため。
! 準備のポイント ! 税務署への説明責任を果たすために
この考え方を税務署に認めてもらうには、客観的な証拠が不可欠です。
① 同等品の見積書:「 もし標準品に交換していたら、いくらだったか」を証明する。
② 高機能品の見積書:「 実際に支払った費用」を証明する。
この2 種類の見積書を工事業者から取得し、必ずセットで保管しておきましょう。
△実行側の注意点 △
この按分方法は、税務署の判断次第では否認されるリスクもあるため、実行前には必ず税理士に相談し、慎重な検討が求められます。
このように見ていくと、『修繕費』と『資本的支出』の判断は、目先の節税にとどまらず、減価償却、補助金、物件の長期的競争力といった要素を組み合わせた、総合的な投資判断であることが分かります。
オーナー様の物件を借主に選んでもらい、使い続けてもらうことが、収益最大化への近道ではないでしょうか 。
※最終的な税務判断については、必ず顧問税理士等の専門家にご確認ください。