2024年3月 弁護士による賃貸法律相談室 ペット可契約における損害賠償請求 齋藤 | さいたま市の賃貸は株式会社 別所不動産にお任せ下さい!

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賃貸法律相談室

  • 2024年3月 弁護士による賃貸法律相談室

    2024/02/18

        

    ペット飼育が許容されている賃貸物件の飼育に起因する損耗は賃借人に原状回復義務が生じるか

    退去時の賃借人の原状回復義務は、経年変化や通常使用によって生じる損耗(通常損耗)についてはその義務を負わない、という考え方が一般的です。その根拠は、経年変化や通常損耗の修繕費等は賃料に含まれていると解されるためです。他方で、ペット飼育が許容される賃貸物件で、ペットによるひっかき傷や臭い、汚物によるシミ等によって、室内の劣化が通常に比べて進みやすいと言えます。このペット飼育によって特に発生した損耗について、通常損耗となるのか特別損耗となるのかが問題となりますが、裁判例における基本的な考え方としては、

    ・賃料設定がペットを飼うことを許容したことで、通常より高額に設定されていた場合は通常損耗・そうでない場合、ペットを飼育していたために、賃貸物件の使用で通常に生ずる傷や汚損を超えて損耗が生じた場合は特別損耗

    との基準で判断されている傾向があります。

    すなわち、「賃料が通常よりも高額に設定されているかどうか」という点が一つのポイントとなります。今回は、「猫の飼育1匹まで可とされていたが賃料は通常より高額に設定されてはいない賃貸物件においてペット飼育に伴う傷・汚損等が特別損耗と判断されたケース(東京地方裁判所平成25年11月8日判決の事例)」を紹介します。この事例は、築17年の3階建ての賃貸アパートで、契約書の特約で「猫1匹の飼育を認めるが、トイレを設置すること、他人の迷惑にならないよう気を付けること、内装を破損した場合修理費を負担すること」と定められていました。

    そこで、12年以上住んでいた賃借人が退去することになり、退去時に室内を見たところ、フローリングの一部は飼い猫の糞尿等を長期間放置したことによる腐食のほか、剥離等の毀損が認められ、当該腐食部分は床下の床根にまで浸透していたため、賃貸人はフローリングの全面張り替えと腐食した床根の補修を行い、費用を賃借人に請求しました。しかし賃借人からは、「12年以上住んでいたのであり、猫の飼育も認められていたのだから、これらの傷は通常損耗と言えるはず」「仮に特別損耗だとしても、築17年経っていて経年劣化で価値が下がっていたのだから、リフォーム代を全て負担するのはおかしい」などと反論され費用の支払いを拒まれたため、

    賃貸人が提訴しました。この事案に裁判所は

    「賃借人は、貸室で猫の飼育を認められていた一方で、その飼育に伴い室内に損傷等を生じさせることのないよう善管注意義務を負っていて、その義務の程度が緩和されるべき事情は認められない」

    と述べて、ペット飼育に起因する傷や汚損は特別損耗として賃借人の費用負担を認めています。

    一方で、工事費用の負担割合について裁判所は

    「フローリング工事に係る費用については、その30%の額を賃借人の負担とするのが相当である」

    と判断しました。理由として4点を挙げています。

    ・フローリングの全面張り替え工事には,新築後約17年における経年変化や通常損耗に係る部分を修復する工事が必然的に含まれており、賃貸人はその分過剰に利益を受けているといえる。
    ・証拠上認定できるフローリングの損傷部位は、あくまで一部にとどまり、その余の部分について通常の使用による損耗の程度を超える損耗が生じていたと認めるに足りない。
    ・したがって、その部分補修でなく、居室の全体につきフローリングの張り替えを行ったことが、可能な限り毀損部分に限定された工事であると認めるに足りず、この点で賃貸人は過剰な利益を受けているといわざるを得ない。
    ・他方で、腐食した床根の補修については、賃貸人が過剰な利益を受けたとまではいえない。

    この事例では、その他、居室ドア縁、巾木、居室石膏ボードについても、猫の爪研ぎによる破損等を特別損耗と認めつつ、上記で述べた事情を個別に考慮して、賃借人の費用負担割合をそれぞれ、居室ドア縁(20%)、巾木(25%)、居室石膏ボード(50%)と認定しています。以上のように、ペット飼育による傷・汚損等が特別損耗と認められた場合でも、

    ・新築時(またはリフォーム時)からどの程度の年数が経過していたか
    ・全面張替(交換)工事を行った場合、傷や汚損が生じていた部分が全体のうちのどの程度の割合だったか

    という点を考慮して工事費用の負担が決められることを示した裁判例と言えます。

    弁護士北村亮典*この記事は、2024年1月20日時点の法令等に基づいて書かれています。

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