2023年12月 弁護士による賃貸法律相談室 齋藤 | さいたま市の賃貸は株式会社 別所不動産にお任せ下さい!

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賃貸法律相談室

  • 2023年12月 弁護士による賃貸法律相談室

    2023/11/11

        

    借主の修繕義務と借主の立ち入り拒否権の関係

    漏水箇所の調査のための立ち入りを拒んだ賃借人に対して契約解除が認められた事例

     賃貸借契約において賃貸人は、賃借人が使用する建物の修繕をすべき義務を負うとされていて、民法606条で以下のように定められています。

    【民法606条】
    1.賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責に帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。
    2.賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。

     具体的にどの範囲まで賃貸人が修繕義務を負うのかということは、個々の賃貸借契約で定められていますが、一般的な住居の賃貸借契約では、電球等の消耗品以外の修繕については、概ね賃貸人が修繕義務を負うことが多いでしょう。そうすると、賃貸人がこの修繕義務を果たすためには、賃借人の使用部分(居室など)への立ち入りが必要となる場合も多々ありうることとなります。
    このため、民法606条2項において、賃借人は、賃貸人が保存行為を行う場合にはこれを拒否できないと定めています。なお、606条2項は「保存に必要な行為」としていますが、これは「賃貸目的物を保存し維持するために必要な修繕行為」を当然に含むものと考えられます。
     このように、建物の賃借人は,賃貸人が行おうとする賃貸建物の維持修繕等の保存行為に対して受忍する義務を負っています。したがって、建物の維持修繕等の保存のための調査や工事を、当該賃借人の賃借部分(居室部分等)で実施する必要があるときは、賃借人は正当な理由なくして自己の賃借部分への立入り等を拒むことができないということになります。
     以上を踏まえると、賃貸人が協力を要請する調査や工事が、建物の維持修繕などの保存に必要と認められるにもかかわらず、賃借人がこれを正当な理由なく拒むときは、賃貸借契約上の債務不履行を構成すると解釈されます。修繕等は、通常は賃借人にとっても利益になることですので、立ち入りを拒むことはあまり起こりえないことではありますが、過去の経緯から賃貸人と賃借人との間で感情的な対立が生じていたり、修繕に至るまでのプロセスで意思疎通がうまくできなかった場合などでは、賃借人側において調査や工事のための立ち入りに難色を示すということもあります。

     では、賃貸人が建物の保存に必要な工事等の調査目的で賃借人の居室に立ち入りを求めたものの、賃借人が正当な理由も無く拒絶をした場合に、賃貸人は債務不履行であると主張して賃借人との契約を解除することができるのでしょうか。この点が問題となったのは、東京地方裁判所平成26年10月20日の事例です。本事案は、ある賃借人の居室の天井から水漏れが生じたため、原因究明のために、賃貸人がその上階の賃借人の居室への立ち入りを求めたものの、上階の賃借人があれこれ理由を付けて拒絶したため、賃貸人が契約の解除を主張して提訴したという事案です。この事案において、裁判所は、まず、賃借人が立ち入りを拒絶した理由についてはいずれも合理的根拠がないとし、

    「漏水に関して本件居室の立入調査が実施できていないのは、賃借人が正当な理由なくこれを拒絶しているためであり、このことは、本件賃貸借契約上の債務不履行を構成する。」

    と認定した上で、それを解除事由とできるかは、

    「賃貸借契約の基礎をなす賃貸人・賃借人間の信頼関係が破壊されたと認められるかどうかの検討が必要」

    とし、“信頼関係が破壊されたか否か”については、

    「賃貸人が賃借人に対して漏水の調査のための立ち入りを求めるにあたり、賃貸人としてなすべき努力を十分に尽くしていたにも拘わらず、賃借人側が、一度も調査に応じる意思を明示せず、また、立ち入りを認めるための条件として、漏水とは全く関係のない、居室の設備等の修繕等を求め、その完全実施を漏水調査への協力の条件とするかのような内容の回答をしたことをもって、この段階において信頼関係は破綻されるに至ったというべきである」

    として、契約の解除を認めました。
     この事案では、過去にこの漏水以外でも、賃借人側が賃貸人側に対し過度に神経質とも取れるような対応をして紛争を生じさせていたことがあり、その事情が認定されたことが信頼関係破壊による解除を認めた一つの要因と考えられます。この点で本件は若干特殊な事例と言えなくもないのですが、いずれにしても、賃借人が不当に建物の維持・保存に必要な修繕の調査や工事を拒む対応を続けた場合には、契約の解除原因になり得るということを示した一つの事例として参考になります。

    弁護士北村亮典*この記事は、2023年9月17日時点の法令等に基づいて書かれています。

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