賃貸法律相談室
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2026年5月 弁護士による法律相談室
改正区分所有法による老朽化マンション再生手段の拡充 2026年4月施行法
2026年4月から施行される区分所有 法の改正では、総会決議の基準を全区 分所有者から出席者へ改めることや、 所在不明区分所有者を裁判所の決定 により決議の母数から除外する制度の 創設など、合意形成の円滑化が図られ ました。
しかし、築古の区分所有建物オーナーにとって最も注目すべきは、建替え以外のマンション再生手段が大幅に拡 充された点です。
本稿ではこの「再生の選択肢の多様化」を 中心に解説します。
(※注:普通決議や一部の特別決議の母数は出席者ベースに 緩和されますが、後述する建替えや新たな再生手法の決議は、 引き続き「全区分所有者」が母数となります。)
従来は建替えか大規模修繕が中心で、売却制度は限定的だった
改正前は、老朽マンションの再生手段は建替え(区分所有 者・議決権の各5分の4以上)か大規模修繕が中心でした。建 替えは合意形成・資金・仮住まいの面でハードルが極めて高 く、
2025年3月末時点の全国の建替え実績は累計323件程度にとどまります。
建物と敷地をまとめて売却したい場合や取壊して敷地を処分したい場合は、
原則として全員同意が必要であり、実務上は極めて困難でした。
改正で加わる4つの新たな再生手段
改正法により、建替え以外に次の4つの手段が新たに多数決 決議で実施可能となります。
再生手段の 名称 建物の扱い 敷地の扱い 主な特徴・ 適したケース 建物敷地売却
(第64条の6)売却する 売却する 建物と敷地をまとめ て第三者へ売却し、
代金を分配建物取壊し
敷地売却
(第64条の7)取り壊す 売却する 取壊したうえで更地 引渡しが求められる
再開発案件等に最適建物更新
(一棟リノベーション)
(第64条の5)躯体を残し大規模更新 維持 一棟リノベーション。
建替えに近い効果を 低コストで実現取壊し
(第64条の8)取り壊す 共有のまま維持 建物のみを取壊し、
敷地を区分所有者 間で共有して整理
決議要件の大幅緩和 ─ 全員同意解消、、5分の4条件付き緩和 ─
この4つの新制度はいずれも原則として区分所有者および 議決権の各5分の4以上で決議可能です。
従来は原則「全員同意」が必要だった売却や取壊しが多数決で実施できるようになった点は大きな前進です。
さらに、耐震性不足、火災安全性不足、外壁剥落の危険、給 排水管腐食、バリアフリー基準不適合の5つの客観的事由の いずれかに該当する場合は4分の3に緩和されます。
政令指 定災害で被災した場合は3分の2まで引き下げられます。
客観的事由に該当するマンションでは4分の3決議が 可能になりますが、
緩和要 件の適用にあたっては客観的事由の確認手続が必要となる点にご留意ください。
所在不明区分所有者を 母数から除外できる制度と組み合わせれば、合意形成 のハードルはさらに下がり得ます。
決議に対応する事 業手続(組合設立、権利変 換計画、分配金取得計画 等)も整備されており、
決議 から実行まで一貫して進め られる制度設計です。
「全員同意の壁」はどう変わる?
4/5(80%)以上の 多数決で可能に新制度の基本
⇓ さらに緩和
3/4(75%)以上へ 引き下げ客観的事由あり※
⇓ 特例
2/3(約66.6%)以上へ 引き下げ被災時
※5つの客観的事由(耐震性不足、火災安全性 不足、外壁剥落の危険、給排水管腐食、バリア フリー基準不適合)
築古区分建物のオーナーが今考えるべきこと ─ 紛争予防の視点から ─
再生手段の拡充は資産価値維持だけでなく、紛争予防の 面でも大きな意味があります。
従来は選択肢が限られていたがゆえに、修繕費の負担や管 理の方向性をめぐって区分所有者間の対立が膠着するケー スもありました。
複数の手段を比較検討できるようになれば、 管理組合内の議論を建設的な方向に導きやすくなります。
そ のためには、管理組合において早期に区分所有者名簿の整 備と管理規約の改正法対応を進め、
合意形成の土台を固め ておくことが不可欠です。
改正法施行後は旧法に抵触する規約条項が失効するため、 規約見直しも必要です。
決議の有効性が後日争われないよう、 招集通知における議案の要領の記載にも留意し、
管理会社と も連携のうえ早めの対応をお勧めします。
*この記事は、2026年3月31日時点の法令等に基づいて書かれています。


