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弁護士による法律相談室
滞納2ヶ月でも契約解除は可能?
~ 弁護士が裁判例で解説する家賃トラブルの判断基準 ~賃料を支払わずに音信普通になる、あるいは少額入金を繰り返すといった入居者の対応にお悩みではありませんか。
今回は、そうした賃料支払いに問題を起こす入居者に対する「賃料不払いによる契約解除」の法的な考え方を、実際の裁判例を通じて解説します。
◆ 賃料不払いによる契約解除の可否とその基準
賃貸オーナー様から弁護士に寄せられる相談で多いのは、原状回復と賃料不払いの紛争です。
賃料の支払い義務は、賃貸借契約における賃借人のもっとも重要な義務です。
したがって、この義務を誠実に履行しない賃借人に対し、賃貸人が契約解除を求めるのは当然の流れです。
しかし、賃料の不払いが一度でもあれば、必ず契約を解除できるわけではありません。ここで問題となるのが「信頼関係破壊の法理」です。
これは、賃借人の契約違反が、当事者間の信頼関係を破壊するほど重大なものでなければ、解約解除は認められないという考え方です。
つまり、形式的な契約違反だけでなく、その程度や背景が問われます。
では、どの程度の賃料不払いであれば契約解除が可能なのでしょうか。裁判実務では、原則として「賃料の不払いが合計3ヵ月に達した時点で」で信頼関係が破壊され、解除が可能になるという基準が概ね確率されています。
ただし、この「3ヶ月分」という基準はあくまで目安です。その他の事情を考慮し、滞納が3ヵ月未満でも解除が認められたり、逆に3ヵ月に達していても解除が認められなかったりする裁判例もあります。
以下では、対照的な2つの事例を紹介します。
◆ 2ヶ月の賃料不払いで解除が認められた事例
東京地裁平成29年5月25日判決は、2ヶ月分の賃料不払いで解除を認めた裁判例です。
この事案の賃借人は、「管理費が高額だ」と一方的に主張し、5ヶ月にわたって毎月1万円を減額して支払い続けました。
保証会社が不足分を代位弁済していましたが、その後2ヶ月は賃料を全く支払わなかったため、賃貸人が解除を通知しました。
このような一方的な減額行為は、オーナー様が遭遇しがちな「逆ギレ」に近い態度と見なされることもあります。
実際、裁判所は2ヶ月の不払いに加え、賃借人が5ヶ月間も独断で減額を続けたことや、管理費減額等の不当な要求を執拗に行った等の背信的態様を総合的に評価しました。
その結果、信頼関係の破壊を肯定し、契約解除と建物の明渡しを認めたのです。
このように、滞納月数が形式上2ヶ月であっても、少額入金の継続や不当な要求といった他の背信的な事情が重なれば、信頼関係の破壊が認められる可能性は高まります。
◆ 3ヵ月の賃料不払いでも解除が認められなかった事例
東京地裁平成25年4月16日判決は、3ヶ月分の賃料不払いでも直ちには契約解除を認めなかった裁判例です。
この事案では、賃借人が3ヵ月の賃料を滞納したため、賃貸人は支払期限(6月6日)を定めて催告しました。
期限内に支払いがなかったため翌7日に解除通知を発したところ、賃借人はさらにその翌日の8日に、滞納していた3ヵ月分を一括で弁済しました。
なお、この事案の特殊事情として、滞納が起きる前から賃借人が賃料減額の調停を申し立てており、話し合いが継続している最中での出来事でした。
このケースで裁判所は、6月7日の解除通知について、調停係属中であったことや、催告期限のわずが2日後に滞納していた3ヶ月分が一括で支払われた事情を重視しました。
そして、この時点では信頼関係の破壊には至っていないとして、解除を無効と判断しました。
他方で、この賃借人はその後も不払いを続けた(この間、わずが6万円の少額入金があったのみ)ため、賃貸人が11月6日に再度行った解除の意思表示は、長期の不払いにより信頼関係が破壊されたとして有効とされ、最終的に明渡しが命じられています。
以上のとおり、「3ヵ月分の滞納」は絶対的な基準ではなく、不払いの理由や解除通知に至る経緯、その後の対応などを総合的に考慮して、解除の可否が判断されることがわかります。
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「賃料3ヵ月の不払いによる解除」は裁判実務で確立された基準ですが、その根底には常に「信頼関係が破壊されたか」という判断軸があります。
したがって、賃料不払いで紛争中の賃借人がいる場合、契約解除を確実にするためには、交渉の経過など賃借人の問題行動を証拠化しておくことが極めて重要です。
例えば、電話内容の録音、少額入金や支払い遅延の正確な記録、不当な要求が書かれたメールやLINEなどの保存です。
これらの記録は、単なる滞納月数だけでなく、賃借人の悪質性や背信性を客観的に立証し、より確実な契約解除へと繋げるための鍵となります。
※この記事は、2025年9月30日時点の法令等に基づいて書かれています。