賃貸法律相談室
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弁護士による法律相談室
賃貸不動産が遺産となったとき、相続人間で物件取得の希望が競合した場合にはどうなるか?
多くのオーナー様のケースでは“何を誰に相続させる”という意思決定はされていると思われますが、万一、それらが不明確だったとき、どのような解決方法があるのか、について解説いたします。
! 相続紛争が起きるケースとは
賃貸用の戸建てやアパートなどは、オーナーが亡くなった時点で遺産になります。
すると誰かが「大家業」を引き継ぐことになるのですが、収入がある資産だけに、「自分がやりたい」と希望する相続人が複数出てくることも少なくありません。
家族での話し合いがうまくいけばいいのですが、意見が食い違ってまとまらないと、「遺産分割協議」は決裂。調停にまで進む、ということも実際にあります。
! 取得希望が競合したときの決定方法
遺産分割は、相続人間での遺産分割協議で決めることが一般的ですが、話し合いがまとまらなかった場合は、家庭裁判所での遺産分割調停により遺産分割をする必要があります。
調停になった場合、基本的には「代償分割」か「換価分割」のどちらかで分ける形になります。
代償分割...誰か1人が不動産を相続して、他の相続人に現金を支払う
価分換割...不動産を売却して相続分に従って分割する
たとえば、みんなが「自分が大家をやりたい」と言い出した場合は、全員が代償分割を希望している状態になります。
このとき「じゃあ、誰がもらう?」という最大の争点が出てくるのです。
ただ、誰に渡すかを決める明確な法律やルールがあるわけではありません。家庭裁判所では、以下のようなポイントをもとに話し合いが進められます。
POINT1 相続人の年齢、職業、経済状況、被相続人との関係
POINT2 相続開始前の占有・利用状況(誰が物件を管理していたか)
POINT3 財産管理能力(管理の実績や適切さ)
POINT4 遺産取得の必要性
POINT5 利用計画(どう活用・再活用するか)
POINT6 遺言に表れていない被相続人の意向
POINT7 譲歩の有無(代償や別の配慮)
POINT8 入札による取得意欲
POINT9 取得希望の一貫性
なかでも大きなポイントになるのが、POINT2 の「相続開始前の占有・利用状況」です。
たとえば、長年にわたって家賃の管理や入居者対応をしてきた子どもと、まったく関与してこなかった子どもが同じように「私が引き継ぎたい」と言っても、裁判所はやはり前者の関わりを重視する傾向があります。
逆に、誰も深く関わっていなかったり、みんなが少しずつ関わっていたという場合は、判断が難しくなり、調停が長引くこともあります。
! 紛争を防ぐには
では、こんなトラブルを避けるにはどうすればいいのか。ひとつは、オーナー本人が「遺言書」を残しておくことです。「この物件は誰に相続させる」「その理由はこうだ」とハッキリ書いておけば、家族の間で争う余地はぐっと減ります。「長女には管理をよく手伝ってもらったから、A物件は彼女に」というような“気持ち”も一言添えておくと、より伝わりやすくなります。
「親が遺言なんて書くタイプじゃない」と感じていても、子ども世代が日頃から関わりを持ち、話し合いの場を設けていくことで、前向きな準備がしやすくなります。
もうひとつは、相続人自身が「実績」を積んでおくことです。
もし「将来は自分が引き継ぎたい」と思っているなら、親が元気なうちから物件管理や経営に関わっておくことが大切です。たとえば、家賃の入金をチェックする、修繕の手配に関わる、入居者とのやりとりに立ち会う...。こういった日々の積み重ねが、いざというときの大きな判断材料になります。
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話し合いがうまくいかず、相続が長期化してしまえば、賃貸経営もストップしてしまいます。そうしたリスクを家族で共有できれば、自然と協力し合う意識も生まれてくるはずです。