業界ニュース
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2025年8月 賃貸業界ニュースから
外国企業オーナー「家賃2.5倍」事件が教える教訓
東京都板橋区の築40年以上の1K賃貸マンションで、中国籍企業のオーナーが月額7万2500円の家賃を17万5000円に引き上げる通告を行い、エレベーター停止などの強硬手段に出ました。
さらに無届けで民泊利用していたことも発覚。住民の約4割が退去または退去を決意し、問題は大きな波紋を広げました。
円安・低金利を背景に外国人投資家の参入が増える中、今後の賃貸管理体制の見直しが求められています。
借地借家法に定められた「鉄壁の借主保護」
日本の借地借家法は借主を強力に保護しており、普通借家契約で家賃を値上げするには、①固定資産税等の税金の増加、②土地・建物価格の変動、③近隣との賃料比較、④経済事情の変動、といった要件のいずれかを満たし、かつ社会通念上相当である必要があります。
今回の「家賃2.5倍値上げ」はこれらを満たさないので、認められない可能性が圧倒的に高いといえます。さらに正当な理由なくして借主を退去させることも更新拒否することもできません。
こうした強引な値上げや退去強要は、貸し手側の信用を損ない、長期的にはオーナーの収益機会を奪いかねません。今回の事件を受け「海外では大幅な家賃の値上げは普通にある」といった解説もあったようですが、これは事実と少し異なります。
実際、世界の主要都市・地域で「入居中の賃料を一気に2~3倍に上げる」ことは、制度的にも市場慣行としても例外的です。
米国のニューヨーク市では年間2.75%、カリフォルニア州では「5%+消費者物価上昇率または10%の低い方」が上限として設定されており、ドイツでは3年間で20%を超える値上げが禁止されています。
日本の借地借家法による保護水準は、国際的に見ても決して過剰とは言いきれないほどです。
つまり、日本の制度は国際的にも突出して厳しいとは言えず、今回のような対応は国籍を問わず、利益追及に目がくらんだ素人オーナーの暴走と断じていいでしょう。
海外投資家増加の背景と売却時の注意点
日本の不動産には海外からの不動産投資が急増しています。最大の要因は円安と低金利環境です。
海外投資家にとって割安となった日本の不動産への投資が活発化しており、国内オーナーの高齢化に伴う売却ニーズとマッチングしているのが現状です。
ここで重要なのは、物件を売却する際のオーナーと仲介会社の努力です。売却時には、買い手に対して日本の賃貸住宅制度や法的規制、業界慣行について説明を行うようにしたいものです。
また入居者に対して適切な管理体制を維持してくれる見込みがある人に売却するようにしてほしいところです。
これは国籍を問わず、すべての物件売却において求められるものかもしれません。
業界全体の信頼性向上に向けて
今回のような強引な家賃値上げトラブルは、賃貸住宅業界全体のイメージを損なう恐れがあります。
全国的な話題になったように、家賃の値上げに対する反発や関心は非常に高いです。これが、もっと継続的な社会問題にまで発展するようになれば、正当な家賃の値上げすらやりづらくなる可能性も考えられます。
すでにネット上には「家賃の値上げは全て拒否できる」などの誤った情報も見受けられます。
しかし、これを機会と捉えることもできます。法律や制度への深い理解、地域社会との適切な関係、長期的視点に基づく経営姿勢などは、経験豊富なオーナーとして優位に立てる要素です。
板橋区の事件は、業界にとって痛い教訓となりました。
しかし、この経験を活かし、不動産会社とオーナーがプロフェッショナルとしての自覚を持って経営に臨むことで、賃貸住宅業界の健全な発展が可能になるでしょう。
言うまでもなく、すでに多くのオーナーが実践していることでもあります。しかし、これから多国籍など多様な背景を持つオーナーとの共存は避けられない現実です。
だからこそ、経験あるオーナーが率先して業界の規範を示し、信頼される賃貸経営のあり方を追求していくことが求められています。