2022年5月号 田中 弁護士が語る賃貸法律相談室 | さいたま市の賃貸は株式会社 別所不動産にお任せ下さい!

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賃貸経営塾

  • 2022年5月号 弁護士が語る賃貸法律相談室

    2022年9月24日

        

    原状回復工事完了までの賃料を賃借人に請求できるか?

     賃貸物件の賃借人が退去する際に、賃借人が不当に原状回復工事の費用負担を拒絶するという紛争が生じた場合、その結果として原状回復工事がなかなかできず、新賃借人の募集もできないために空室状態が長い間続いてしまうということが起こり得ます。このような場合に、「原状回復工事が行えなかったことは賃借人の責任であり、原状回復工事が終わるまでは建物の明渡しも完了していない」として、原状回復工事完了までの間の賃料相当額を賃借人に請求できるのでしょうか?賃貸借契約終了時における賃借人の原状回復義務については、改正民法621条により規定されていますが、この条文では「賃貸借が終了したときは、その損傷を原状に復する義務を負う。」とされているだけであり、「賃借人が原状回復義務を履行するまでは、明渡し(契約の終了)は認められず、賃料支払義務を負うのか」という点については明らかではありません。このため、この問題については、過去の裁判事例から考えていく必要がありますが、まさにこの点が問題となったのが、東京地方裁判所平成28年2月19日判決の事例です。
                                                                                   
     この事例の内容を説明しますと、アパートの一室の賃貸借の事例で、賃借人から解約の申し出があり、賃貸人は鍵の返還を受けたものの、鍵の返還を受けた時点では原状回復はなされておらず、室内には什器やエアコン等の備品が付いたままでした。その後、賃借人はあれこれ理由をつけて原状回復工事の費用の支払いを拒否し続けました 。
    結局、賃貸人が賃借人から原状回復工事の費用の支払いを受けられて工事ができたのは、鍵の返還を受けてから1年半以上が経った後でした。このため、賃貸人が賃借人に対して、原状回復工事が完了するまでは、貸室の明渡しも完了していないものとして、この間の賃料相当額を請求した、という事例です。なお、この事案の賃貸借契約書には、明渡しと原状回復については以下のように規定されていました。

    「15条1項賃借人は、本件賃貸借契約が終了したとき、本件居室を遅滞なく賃借人の負担で、自然損耗と認めがたい破損・汚損箇所を修繕する等、原状に復して賃貸人に返還する。2項賃借人は、前項の原状に復するための工事を、賃貸人又は賃貸人が指定した業者に委託することを予め承諾する。3項賃借人が本件居室を返還した後、本件居室に残置物等が存する場合、賃借人はその所有権を放棄し、賃貸人は、賃借人の費用負担でその撤去、任意処分、その他必要な措置をとることができる。賃借人は、これに対して異議を述べない。」

    賃料請求できない、という裁判所の判断
    このような事案において、果たして賃貸人からの請求は認められたのでしょうか? この点について、裁判所は、「契約書において、原状回復をした上で退去すべき」と合意されていると解釈されるかどうかによって判断しています。この基準を前提として、裁判所は、本事例については、

    「本件賃貸借契約及び本件更新契約において、本件居室の明渡しにつき「原状回復をした上で明け渡すこと」を指す旨合意したことを認めるに足りる証拠はない。」、「かえって、本件更新契約15条1項は、原状回復と返還(明渡し)とが別の行為であることを前提とし、明渡しに先立って原状回復が行われなければならない旨を定めているものと解される」とし、従って「原状回復をせずに明渡しをした場合には、明渡し前の原状回復義務違反を理由とする債務不履行が成立するにすぎないから、原状回復がなされていないことは、明渡し義務の未履行を意味するものではない。」

    と述べて、原状回復工事完了までの賃料の請求は認めませんでした。このように、裁判所は、本事例における賃貸借契約の規定の仕方では、あくまでも明渡しと原状回復義務は別々の義
    務であり、原状回復工事の未了が建物明渡の未了とは同視できないと判断しています。

    判例に学ぶ貸主の対応策は?
     以上を踏まえると、賃貸人が原状回復工事完了までの賃料の請求をできるかどうか、という点については、「契約書で明渡し前の原状回復義務の履行が合意されていると解釈されるか」という点がまず考慮されることとなります。この点、どのような契約書の条文なら賃貸人が有利になるのかというと、契約書の記載として「原告において原状回復をした上で明け渡す」という文言となっていれば、賃貸人に有利となる可能性があります(もっとも、他の条文や契約時の状況などから総合的に判断されるので、確実に大丈夫とは言えないことにご留意ください)。
                                          
     以上のように、この問題は法的に難しい問題を含んでいますので、原状回復費用負担で借主と長期に揉めるような場合は、まず貸主の負担で工事を完了させ、次の募集を開始して新たな賃料収入を確保したうえで、並行して借主への請求を継続することが望ましでしょう。

    こすぎ法律事務所弁護士北村亮典
    ※2022年7月20日時点の法令等に基づいて書かれています。

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