2022年4月号 田中 賃貸物件の原状回復について | さいたま市の賃貸は株式会社 別所不動産にお任せ下さい!

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  • 2022年4月号 弁護士が語る賃貸物件の原状回復について

    2022年4月25日

        

    経年劣化を考慮せず賃借人へ原状回復義務を命じた裁判例

     賃貸物件の賃借人の退去後の原状回復については、国土交通省により「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」が示されて以降、このガイドラインによる賃借人の負担の考え方が賃貸管理・裁判実務で通用しています。すなわち、このガイドラインでは、壁のクロス、フローリング、襖、流し台といった貸室内の設備の原状回復においては、賃借人の過失で破損したものであっても、ガイドラインにおいて想定されている経年変化の年数を経過している場合、これらの原状回復費用は、賃借人ではなく賃貸人において負担すべきもの、ということになっています。

     しかし、例えば賃借人側の故意や著しい過失(例えばタバコの不始末で火災を発生させ、これにより室内全面の工事が必要になってしまった場合等)により、室内の全面的な原状回復工事が必要となってしまった場合にも、上記のガイドラインの考え方が適用され、耐用年数が経過していたものについて賃借人は原状回復の負担を全く負わないのでしょうか? この点が問題となったのが、東京地方裁判所平成28年8月19日判決の事例です。

                            

     この事案の概要を簡単に説明しますと、賃貸マンション(築46年)の一室で、賃借人がタバコの不始末により火災を発生させてしまい、その室内全面が燃えて完全に使えない状態になってしまいました。このため、部屋に居られない賃借人は退去しました。この火災の修繕のために、賃貸人は、フローリング、給排水設備、電気やガス設備の補修費用として143万円を要することとなってしまいました。そこで、この費用を賃借人に請求したところ、賃借人は、「自分はこの物件に19年賃貸で住んでいる。築年数も相当経っており、国交省の原状回復のガイドラインによる経年劣化の年数を既に経過しているのだから、この分は賃貸人が負担すべきだ」と反論して、支払いに全く応じませんでした。賃貸人側としては、「賃借人の著しい不注意で一室が丸々使えなくなってしまったのに、その原状回復費用を全て賃貸人が負担しなければならないというのは全く納得できない」ということで訴訟に踏み切ったというのがこの事例です。では裁判所はどのように判断したのでしょうか?

                            
    この事案では、裁判所は、「通常使用により生じる程度を超えて貸室内の設備を汚損又は破損したと認められる場合、国土交通省のガイドラインの考え方が本件に及ぶか否かにかかわらず、賃借人は、貸室内の設備等が本来機能していた状態に戻す工事を行う義務があるというべきである。」と述べて、ガイドラインの考え方を適用すべきかどうかを問題とせずに、原状回復について賃借人の責任を認め、工事費用の請求を認めました。なぜ、裁判所はこのような判断をしたのか、その理由については以下のように述べています。

    「賃借人は、本件火災前の劣悪な使用方法及び本件火災により、通常使用により生じる程度を超えて201号室の設備を汚損又は破損したと認められる」「ガイドラインの考え方が本件に及ぶか否かにかかわらず、賃借人は、通常使用していれば賃貸物件の設備等として価値があったものを汚損又は破損したのであるから、201号室の設備等が本来機能していた状態に戻す工事を行う義務があるというべきである。」
     

    裁判所がこの事案でガイドラインの考え方の適用の可否を問題としなかった根拠は判決文からは明確ではありません。しかし、国交省のガイドラインでも、「経過年数を超えた設備等を含む賃借物件であっても、賃借人は善良な管理者として注意を払って使用する義務を負っていることは言うまでもない」「そのため、経過年数を超えた設備等であっても、修繕等の工事に伴う負担が必要となることがあり得ることを賃借人は留意する必要がある。」と述べられています。この点について、具体的な場合の例示として

    「経過年数を超えた設備等であっても、継続して賃貸住宅の設備等として使用可能な場合があり、このような場合に賃借人が故意・過失により設備等を破損し、使用不能としてしまった場合には、賃貸住宅の設備等として本来機能していた状態まで戻す。例えば、賃借人がクロスに故意に行った落書きを消すための費用(工事費や人件費等)などについては、賃借人の負担となることがあるものである。」と述べられています。

    上記で述べられているような経年劣化を考慮しない原状回復義務が賃借人に認められる場合というのは、個別のケース毎の判断となる問題ですので、この裁判例はその一つの事例を示すものとして参考になります。なお、この裁判例では、工事費用の他、「原状回復工事が完了するまでの間、当該貸室を他に賃貸に出すことができなかった」という逸失利益も認め、賃料7カ月分の損害も認めていますので、この点も参考になるところです。
    こすぎ法律事務所 弁護士 北村亮典
    2022215日時点の法令等に基づいて書かれています

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